徒然

日々思ったことをつらつらと書いていこうと思います

性犯罪について考えてみた(後)

この記事を読もうと思われている方は前編をご覧になってから読むことをお勧めします。

四 痴漢について


   社会問題にまでなっている性犯罪として痴漢が挙げられる。性犯罪について論ずるとき、このテーマを外すことはできないであろう。
   痴漢の法律構成は複雑になっている。都道府県の迷惑防止条例、強制わいせつ、準強制わいせつが当てはまる。わいせつな行為自体が暴行を構成する場合に、痴漢は強制わいせつ罪となると考えられる。そうでない場合は迷惑防止条例の範囲になると思われる。 最近の判決で、他の乗客がいないバスの車内で寝ていた女性にわいせつな行為をした事案で準強制わいせつの判断をしたものがある。
    私個人の見解として、痴漢を準強制わいせつと見てもいいのではないかと考えている。準〜が付いている点につき、準強制性交と同様の抗拒不能が要件になる。痴漢の典型的な事案として、満員電車の車内で行われるものがある。この場合、混雑した車内ということで客観的に抵抗するのは不可能に近いといえる。この点について、外部が作り出した状況に意図的に乗っかり、わいせつな行為をしたと考えられる。そのため、準〜の構成をとってもいいのではないかと思う。
   しかし、安易に強制わいせつを取れない問題もある。裁判所の判断はあくまで客観的事実に寄らなければならない。証拠が必要となる。痴漢の現場で問題となるのが証拠の少なさである。証拠が被害者の証言のみになることも少なくないという。そう考えた場合、冤罪の危険も出てくる。強制わいせつをとった場合、6月以上10年以下の懲役となり、自由刑が科されてしまう。一方、迷惑防止条例の場合、罰金刑もあり、その刑は軽いものになる。証拠収集の難しさもあることから、この法律構成がいいのかもしれない。
   また、証拠としてDNAや指紋もあるが、触った際にどこまで残るか疑問である。証明の可能性もあるが、万全ではない。証拠は被害者の証言に偏らざるをえない。刑法の原則、疑わしきは罰せずを徹底すると、痴漢加害者は全て罰されないという状況になる。困難な問題が含まれる。


五 自衛について


   自衛について、男女を分けて論じられることの多い性犯罪では、女性サイドから男性ではなく、女性に強いるのかとの声も聞かれるが、撲滅には程遠いのだから、自分の身は自分で守るしかないだろう。
   自衛は、法律では正当防衛と言われている。法律の構成としては、急迫不正の侵害があり、かつ専ら防衛のために相当性のあるものでなければならない。相当性がなければ、過剰防衛になる。
   痴漢の場合は、自らの性的尊厳が現に侵されており、強制わいせつなどを構成する行為であることから、不正性も急迫性も満たすとしていいだろう。ここで問題となるのは、相当性になる。
   この正当防衛の特徴からして、不正Vs正という構成をとっている。反撃行為と侵害行為のバランスが著しく崩れる場合は、過剰防衛となりうる。例えば、駄菓子を取り返すのに、奪った相手を殺した場合には均衡を欠いているといえる。必要最小限度であり、相当性は求められる。しかし、唯一の手段である必要はない。
   では、この安全ピンの問題に戻ろう。安全ピンで刺した場合、傷害罪を構成するわけであるが、侵害されている性的尊厳と比較して、大きいか小さいかは判断しづらいと考えられる。ネット上の意見で傷害だという意見が多かったが、このことについて、傷害罪を構成するが、そうして痴漢を防ぐ、反撃するしかない場合にはやむを得ないと言える。実際に、身動きの取りづらい状態で、一般的に力が女性よりも強い男性から侵害行為を受けている場合に、安全ピンという武器で抵抗する。加えて、安全ピンの侵害はたしかに痛いかもしれないが、日常で刺してしまったことのある方はご存知かもしれないが、全治数ヶ月の怪我でもない(感染症のリスクについては今回考えないものとする)。となると、著しく相当性を欠いているとも言えないのではないだろうか。ただし、積極的に加害する意思を持ってはいけない。侵害行為をやめたのに、刺し続けることや、痴漢したやつに対して攻撃してやろうと思った場合には正当防衛を離れてしむ。現在行われている痴漢という侵害行為に対して、それをやめさせる目的で反撃する限りで許される。安全ピンで刺したからといって、すなわち、過剰防衛とはならない。ただ、声が出せない状況だとか、その状況によって変わるものであることに留意すべきだろう。
   ただ、裁判所が性的尊厳に対する評価を低く下す傾向があるかもしれない。身体を傷つけることに対して重すぎる判断を下すかもしれない。


六 まとめ


   性犯罪、特に痴漢は、男Vs女という性別での戦いになりやすい。片方は専ら侵害を受け、片方は過度に冤罪を恐れる傾向にある。ネットという顔の見えないフィールドで、男女という性別の違いによって、相手を考えることなく殴り合ってる印象を受ける。
   強制性交等罪になり、女性のみならず男性も客体(被害者)として捉えられるようになった。日本ではあまり取り上げられないが、世界では一定数男性のレイプ被害者も存在している。心の傷は男女関係なく深いものになるだろう。痴漢においても、冤罪を恐れる男性が世の男性の大半だろう(そう思いたい)。ある一定の男性が痴漢という行為に及んでいるのではないかと思う。
   近年では性犯罪に対する正しい理解をしようと努める研究も増えてきた。どうも、痴漢をする者は性的欲求不満だけではないようである。それら研究も生かしながら、社会問題として考えていく必要があると考える。それはないからのそ、痴漢ダメ絶対と書かれたタスキをつけ、女子高生が大量に出てくるような残念な状況になるのではないだろうか。
   性別の戦いにならず、国も民間も一つの社会問題として性犯罪の問題を真剣に考えられるようになってほしいと願うばかりである。